ヒト試験でストレスを評価するには?企業担当者が押さえる試験設計・評価指標のポイント
食品、飲料、サプリメントなどの開発では、日常生活で生じる一時的なストレスや気分状態を評価するために、ヒト試験が検討されることがあります。ストレスは単一項目だけで捉えられるものではなく、ストレスや気分状態に関する質問票による主観評価、血液検査、唾液中成分、自律神経関連指標など、複数の観点から評価する必要があります。また、測定時刻、睡眠、食事、カフェイン摂取、業務負荷などの影響を受けやすいため、試験条件の標準化も重要です。企業担当者には、想定する機能性と主要評価項目を対応させ、試験参加者の条件やデータ解析方針まで一貫したプロトコルを作成する視点が求められます。本稿では、ストレス領域におけるヒト試験の設計・評価・運用上のポイントを解説します。
ストレス領域のヒト試験で最初に整理すること
ストレスをどの側面から評価するかを決める
ストレス領域のヒト試験では、「ストレス」という広い概念をそのまま評価対象にするのではなく、どのような状態や反応を確認したいのかを具体化します。
評価の方向性は、大きく分けると次の3つです。
- 本人が感じる緊張感、疲労感、気分状態などの主観評価
- ストレス反応を反映するバイオマーカー
- 心拍変動などから算出される自律神経関連指標
これらは同じ現象を完全に置き換える指標ではありません。主観的にはストレスを感じていても生理指標に明確な変化がみられない場合や、その反対も考えられます。そのため、製品で想定する機能性を中心に主要評価項目を設定し、異なる側面を確認する指標を副次評価項目として組み合わせる設計が検討されます。
アポプラスステーションのストレス試験では、一時的なストレスを感じている健常成人を対象に、ストレスや気分状態に関する質問票やVAS(視覚的評価尺度)のほか、自律神経活動、唾液中アミラーゼ、唾液中コルチゾールなどの指標を組み合わせて評価する場合があります。なお、これらはあくまで一例であり、評価目的に応じて適切な指標を選択・組み合わせて実施します。
機能性表示食品との関係
機能性表示食品としての活用を想定する場合は、表示しようとする機能性と、主要評価項目、試験参加者、摂取期間、評価時点の整合性が重要です。
例えば、一時的な精神的負担に伴う気分状態を評価する試験と、日常的なストレスの感じ方を一定期間にわたって評価する試験では、適した質問票や試験計画が異なります。どのような場面の、どのような状態を評価するのかが曖昧なまま試験を開始すると、得られた結果を届出資料や論文で位置付けしにくくなる可能性があります。
機能性表示食品制度では、事業者が安全性と機能性に関する科学的根拠などを届け出、自らの責任において適正な表示を行うことが求められています。したがって、試験の企画段階から想定する表示内容とエビデンスの関係を整理しておくことが重要です。
ヒト試験の目的を整理する
探索的試験
探索的試験は、評価指標、摂取量、摂取期間、負荷課題、測定時点などを検討するために実施されます。
ストレス領域では、質問票の得点分布やバイオマーカーの個人差が大きくなることがあります。小規模な探索的試験によって、どの指標が想定する機能性を捉えやすいか、負荷課題によって適切な反応が得られるか、試験参加者が測定手順を継続できるかを確認する方法が考えられます。
探索的試験で得られた変化量やばらつきは、次段階のランダム化比較試験における参加者数の設計にも活用されます。
検証的試験
機能性表示食品の届出資料、査読付き論文、社内の製品開発判断などへの活用を想定する場合は、検証的試験として主要評価項目と解析方法を事前に定めます。
主要評価項目には、想定する機能性と直接対応する質問票の総合得点や下位尺度、VASの変化量などが候補として挙げられます。複数の質問票やバイオマーカーを同列に扱うと、多重性の問題が生じ、結果の解釈が複雑になる可能性があります。そのため、主要評価項目、主要評価時点、副次評価項目をプロトコルと統計解析計画書で明確にします。
安全性確認
機能性の評価と併せて、身体測定、血液検査、尿検査、問診、有害事象の収集などによる安全性確認を行うことがあります。
検査内容は、試験食品の原材料特性、摂取量、摂取期間、既存の安全性情報を踏まえて設定します。機能性の確認と長期摂取または過剰摂取時の安全性確認を別試験で行う場合は、それぞれの目的を明確に分けることが重要です。
ストレス評価に用いられる試験デザイン
ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験
日常生活で感じるストレスや気分状態を、一定期間の継続摂取によって評価する場合は、ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験が候補になります。
試験食品群とプラセボ群を同じ時期に観察するため、季節、生活環境の変化時期、社会的な出来事など、時間経過に伴う影響を両群で受けやすい点が特徴です。アポプラスステーションの試験例でも、ストレスを感じている健常な成人を対象とした二重盲検並行群間比較試験を紹介しています。
割付時には、ベースラインの質問票得点、年齢、性別などを層別因子として検討することがあります。ただし、層別因子を増やしすぎると割付が複雑になるため、結果への影響が大きいと考えられる項目に絞る必要があります。
クロスオーバー試験
単回摂取後の一時的なストレス反応や、短時間の負荷課題に対する反応を評価する場合は、クロスオーバー試験が選択肢になります。
同じ試験参加者が試験食品とプラセボの両方を摂取するため、個人差の影響を抑えやすい一方、前の試験期の影響を考慮したウォッシュアウト期間が必要です。また、同じ計算課題や注意課題を繰り返すと、慣れによって反応が変化する可能性があります。課題の難易度、提示順、実施時間、休憩時間を標準化し、順序効果を解析上考慮することが重要です。
単回摂取負荷試験
単回摂取負荷試験では、試験食品またはプラセボの摂取後に、計算課題、注意課題、時間制限を伴う作業などを実施し、その前後で主観評価や生理指標を測定する設計が用いられることがあります。
このデザインでは、摂取から負荷開始までの時間、課題の実施時間、測定回数を、素材の作用仮説に合わせて設定します。負荷が弱すぎると変化を捉えにくく、強すぎると試験参加者の負担が大きくなるため、予備試験で課題の妥当性を確認することも重要です。
長期摂取試験
日常的なストレスの感じ方や気分状態を評価する場合は、数週間程度の継続摂取試験が検討されます。
長期摂取試験では、試験開始前後の質問票だけでなく、期間中の日誌や定期的な簡易評価を組み合わせる場合があります。評価回数が多すぎると回答負担が増え、質問への慣れが結果に影響する可能性があります。測定頻度は、必要な情報量と試験参加者の負担のバランスを考えて決定します。
主評価項目と副次評価項目の決め方
質問票とVASによる主観評価
ストレスは本人の感じ方を含む概念であるため、妥当性が検討された質問票やVASが主要評価項目として用いられることがあります。
質問票を選定する際は、評価対象が「現在の気分」なのか、「一定期間のストレス状態」なのか、「ストレスに対する捉え方」なのかを確認します。同じストレス領域の尺度でも、測定する概念や回答対象期間が異なるためです。
また、総合得点だけでなく、緊張、混乱、活力などの下位尺度を解析する場合があります。ただし、下位尺度を多数設定すると偶然の差を拾う可能性が高まるため、主解析対象を事前に定めます。
VASは短時間で回答しやすく、負荷課題の前後など複数時点で測定する場合に利用しやすい方法です。一方、質問の文言や両端の表現によって回答が変わる可能性があるため、試験期間を通じて同じ様式を使用します。
唾液中バイオマーカー
唾液中コルチゾールは、ストレスに関連する生理指標の一つとして用いられることがあります。ただし、コルチゾールには日内変動があり、一日の分泌量、時間経過に伴う傾き、起床時反応など、採取方法によって評価する内容が異なります。
そのため、来院時に1回だけ採取するのか、負荷課題の前後で複数回採取するのか、自宅で一定時刻に採取するのかを、試験目的に合わせて決定します。採取時刻が異なるデータを単純に比較すると、摂取以外の変動を含む可能性があります。唾液中アミラーゼは、比較的短時間の反応を捉える指標として使用されることがあります。
アポプラスステーションでは、唾液中バイオマーカーとしてアミラーゼ、コルチゾール、DHEA-S、クロモグラニンA、IgAなどをストレス関連の測定項目として紹介しています。
唾液には複数のストレス関連物質が含まれ、目的や測定状況に応じて評価指標を選択する必要があると報告されています。バイオマーカーを増やすほど情報量は増えますが、採取条件、保存条件、分析費用、解析の多重性も考慮しなければなりません。
自律神経関連指標
心拍変動を用いた自律神経関連指標も、ストレス試験の副次評価項目として検討されます。
測定時は、姿勢、安静時間、呼吸、室温、会話、測定機器、測定時間を統一します。直前の歩行や階段移動の影響が残る可能性もあるため、来院後に一定の安静時間を設けることが重要です。
自律神経関連指標は、測定機器や解析アルゴリズムによって算出値の意味が異なる場合があります。プロトコルには使用機器、測定条件、解析対象とする指標を記載します。
主観評価と客観指標の役割を混同しない
質問票、唾液中成分、自律神経関連指標は、ストレスの異なる側面を捉えるものです。
主観評価で群間差がみられ、生理指標では明確な差がみられない場合でも、直ちに結果が矛盾しているとは限りません。反対に、バイオマーカーの変化だけをもって、試験参加者が感じるストレス状態の変化を断定することも避ける必要があります。
主要評価項目を中心に結論を整理し、副次評価項目は作用仮説の補足や探索的な知見として位置付けます。
測定条件を標準化する
唾液採取条件を事前に定める
唾液を採取する場合は、採取時刻、採取前の飲食、カフェイン、喫煙、歯磨き、運動、うがいなどの条件を定めます。
採取方法、採取量、遠心処理、凍結までの時間、保管温度、搬送方法も施設間で統一します。自宅採取を行う場合は、採取時刻の記録方法や検体保管の手順を明確にし、手順から外れた検体の扱いを統計解析計画書で定めます。
負荷課題と測定環境を統一する
負荷課題を用いる場合は、課題の内容だけでなく、説明方法、練習時間、実施時間、画面表示、室温、照明、周囲の音、検査担当者の対応を標準化します。
実施施設や担当者によって説明の強さが異なると、試験食品以外の要因が結果に影響する可能性があるため、試験開始前に擦り合わせをします。
試験参加者の選定とスクリーニング
選択基準
ストレス領域の食品試験では、日常生活で一定のストレスを感じているものの、疾病の診断や治療を目的としない健常な成人を対象とする設計が考えられます。
スクリーニングでは、質問票の得点、年齢、性別、睡眠や飲酒、勤務形態などの生活状況などを確認します。質問票の得点が低すぎると変化を捉えにくく、高すぎる場合は食品試験の対象として適切かを医師と検討する必要があります。
一度の自己申告だけで選定すると、季節や一時的な出来事の影響を受ける可能性があります。必要に応じて、事前アンケートと来院時評価を分ける方法も検討されます。
除外基準
主な確認項目として、医療機関で継続的な診療を受けている状態、気分や睡眠に影響する医薬品の使用、試験結果に影響する可能性があるサプリメントの摂取、夜勤や交代勤務、妊娠・授乳、試験食品に対するアレルギーなどが挙げられます。
ただし、除外基準を厳しくしすぎると、募集期間の長期化や、想定する参加者との乖離につながる可能性があります。安全性とデータの解釈可能性を確保しながら、試験目的に必要な条件へ絞り込みます。
交絡因子
ストレス評価には、睡眠、業務量、家庭環境、運動、飲酒、カフェイン摂取、喫煙、月経周期、季節、試験期間中の大きな生活上の変化などが影響する可能性があります。
すべてを禁止するのではなく、一定の生活を維持するよう依頼し、日誌やアンケートで変化を記録します。どの因子を除外基準にするか等を事前に検討します。
ヒト試験実施時のオペレーション
CROと医療機関の選定
CROを選ぶ際は、ストレス領域の質問票やバイオマーカーに関する知識だけでなく、負荷課題の運用、唾液検体の管理、試験参加者のリクルート、データマネジメント、統計解析への対応範囲を確認します。
採血を伴う場合や、試験参加者の状態を医学的に確認する必要がある場合は、医療機関と連携した実施体制を構築します。複数施設で試験を行う場合は、設備や検査担当者による差を抑えるため、事前に擦り合せを行い手順書の作成を検討します。
倫理審査と試験参加者への説明
試験開始前には倫理審査を受け、試験参加者向けの説明文書、同意文書、募集広告、負担軽減策、有害事象への対応方法などを整備します。
ストレス負荷課題を実施する場合は、課題の内容、想定される負担、途中で中止できることを分かりやすく説明します。また、試験参加者が強い不快感を示した場合の中止基準や、検査担当者から医師へ連絡する手順も事前に定めます。
試験参加者リクルート
募集時には、単に「ストレスを感じている人」とするのではなく、年齢、生活状況、質問票の基準、来院可能な時間帯などを踏まえて募集条件を設定します。
就労者を対象とする場合、平日日中の来院が難しいことがあります。早朝、夕方、休日の検査枠を設けるかどうかは、測定時刻の統一と募集のしやすさを合わせて検討します。
データ管理とモニタリング
質問票は、未回答や二重回答を防ぐため、回答方法と確認手順を統一します。電子的に回答を収集する場合は、誤答がないようシステム上で設定をします。
唾液検体や自律神経測定では、採取時刻、安静時間、機器の装着状態、測定エラーなどの情報も記録します。主要評価項目の数値だけでなく、データの信頼性を判断するための付随情報を残すことが重要です。
費用とスケジュールの考え方
ストレス領域のヒト試験に必要な費用は、参加者数、摂取期間、来院回数、質問票の種類、唾液や血液の検査項目、自律神経測定機器の種類、負荷課題の実施回数、解析内容などによって異なります。
唾液を複数時点で採取する試験では、検体数が「参加者数×来院回数×採取時点数」となるため、検体数に応じて分析費用と検体管理の工数が増加します。自宅採取を行う場合は、採取キットの発送、回収、保管、手順逸脱への対応も必要です。
スケジュールは、試験目的の整理、評価尺度の選定、プロトコル作成、試験食品とプラセボの準備、倫理審査、試験参加者募集、摂取期間、検体分析、データ固定、統計解析、報告書作成に分けて見積もります。
生活が変化する時期を避けた特定の時期に試験を実施する場合は、試験参加者の生活状況を揃えやすい一方、その時期を逃すと試験開始が大きく遅れる可能性があります。製品開発の希望時期から逆算し、余裕を持ったスケジュールを設定することも重要です。
結果の解釈と活用
ストレス試験の結果は、統計学的有意差の有無だけでなく、群間差の大きさ、信頼区間、ベースライン値、欠測、摂取率、負荷課題の実施状況、生活環境の変化などを含めて解釈します。
主要評価項目で明確な群間差が確認されなかった場合でも、質問票の得点分布、負荷課題の強度、測定時刻、プラセボ群の変化、試験参加者の選定範囲を検討することで、次回研究に活用できる知見が得られる可能性があります。
一方、事前に定めていない下位尺度や一部の試験参加者だけで差がみられた場合は、探索的な結果として慎重に扱います。多数の指標や時点を評価した試験では、偶然の差である可能性も考慮し、必要に応じて追加試験を検討します。
試験結果は、機能性表示食品の届出資料や学術論文の作成、製品開発・評価における検討資料として活用される場合があります。
まとめ
ストレス領域のヒト試験では、想定する機能性を具体化し、主観評価、バイオマーカー、自律神経関連指標の役割を整理することが重要です。その上で、継続摂取を評価する並行群間比較試験か、短時間の反応を評価するクロスオーバー試験または単回摂取負荷試験かを、試験目的に合わせて選択します。
企業担当者は、主要評価項目、試験参加者の選択・除外基準、測定時刻、唾液採取条件、負荷課題、生活管理、統計解析方針を早期に整理する必要があります。特に、主観評価と生理指標を同じ意味として扱わず、各指標が何を評価するのかをプロトコルで明確にすることが、解釈可能なエビデンスの構築につながります。
アポプラスステーションは、ストレスに関するヒト試験の企画、試験デザインの検討、医療機関との調整、試験参加者リクルート、検体管理、データ解析などを検討する際の支援先の一つとなります。