ヒト試験でコレステロールを評価するには?企業担当者が押さえる試験設計・評価指標のポイント
機能性表示食品やヘルスケア製品の開発において、コレステロールはエビデンス構築の対象となりやすい評価領域の一つです。一方で、コレステロールにはLDLコレステロール、HDLコレステロール、non-HDLコレステロール、総コレステロールなど複数の指標があり、どの項目を主要評価項目とするかによって、試験対象者の選定や統計解析の考え方が変わります。また、採血条件、食事、体重変動、服薬状況などの影響を受けるため、測定条件と生活管理をプロトコルで具体化することも欠かせません。企業担当者には、製品の想定する機能性と試験の活用目的を整理し、適切な試験デザインへ落とし込む視点が求められます。本稿では、コレステロール領域におけるヒト試験の設計・評価・運用上のポイントを解説します。
20年以上の実績と経験があるアポプラスステーション株式会社
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コレステロール領域のヒト試験で最初に整理すること
「コレステロール」を一つの数値として扱わない
コレステロール領域のヒト試験では、最初に評価対象となる脂質指標を明確にします。代表的な客観指標には、LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、non-HDLコレステロール(non-HDL-C)、総コレステロール(TC)があります。
必要に応じて、中性脂肪、アポリポ蛋白、体重、BMI、体組成などを副次評価項目または探索的指標として組み合わせることも検討されます。ただし、測定項目を増やすほど検査費用や解析上の論点も増えるため、製品の想定する機能性との関連性を踏まえて選定する必要があります。
日本動脈硬化学会のガイドラインでは、脂質異常症の判定基準として、LDL-C 140mg/dL以上、境界域高LDL-C 120~139mg/dL、HDL-C 40mg/dL未満、non-HDL-C 170mg/dL以上などが示されています。ただし、これらの数値を食品のヒト試験にそのまま適用するのではなく、試験目的、想定する表示、医師の判断、既往歴や服薬状況を踏まえて選択基準を設定します。
機能性表示食品との関係
機能性表示食品の届出を見据える場合は、表示しようとする機能性と、主要評価項目、試験対象者、摂取期間、統計解析計画の整合性が重要です。
最終製品を用いた臨床試験を科学的根拠とする場合、原則として疾病に罹患していない健常な日本人成人から試験参加者を選定します。研究計画の事前登録、倫理審査、査読付き論文としての公表なども見据え、試験開始前から必要な工程を整理しておくことが求められます。
ヒト試験の目的を先に決める
探索的試験
探索的試験は、評価指標、摂取量、摂取期間、試験対象者の条件などを検討するために実施されます。
コレステロール領域では、ベースライン値の分布や個人内変動を把握し、検証的試験の参加者数を設計するための情報を得ることが主な目的です。また、試験食品の摂取状況や来院スケジュールに無理がないかを確認する機会にもなります。
小規模な試験であっても、測定条件や解析方針を事前に定めておくことで、次段階のプロトコル作成に活用しやすくなります。
検証的試験
機能性表示食品の届出資料、査読付き論文、社内の製品開発判断などへの活用を想定する場合は、検証的試験として設計します。
主要評価項目を原則として一つに定め、期待する群間差、測定値のばらつき、脱落率などを踏まえて参加者数を設定します。複数の脂質指標を同列に扱うと、解析結果の解釈が複雑になるため、主要評価項目と副次評価項目の役割を明確にすることが重要です。
安全性確認
機能性の評価と併せて、臨床検査、問診、有害事象の収集などによる安全性確認を行う設計も検討されます。
検査項目は、試験食品の原材料特性、摂取量、摂取期間、既存の安全性情報に応じて設定します。長期摂取や過剰摂取の安全性を別試験として確認する場合は、機能性を検証する試験と目的を混在させず、それぞれの位置付けを明確にします。
コレステロール評価に適した試験デザイン
コレステロール領域では、単回摂取後の短時間の変化よりも、一定期間の継続摂取による変化を確認する試験デザインが中心となります。
同じ試験参加者が時期を分けて試験食品とプラセボの両方を摂取し、個人差を抑えやすいクロスオーバー試験では試験全体が長期化し、離脱や生活習慣の変化が生じる可能性もあるため、ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験が選択されるケースが多いです。このデザインでは、試験食品群とプラセボ群を同じ時期に観察できるため、季節変動や社会環境の変化による影響を比較的受けにくく、一定期間の継続摂取を評価する試験に適しています。
また、割付時にはベースラインのLDL-C、年齢、性別、BMIなど、結果に影響する可能性がある因子を考慮した層別化が検討されます。ただし、層別因子を増やしすぎると割付や解析が複雑になるため、主要な交絡因子に限定することが現実的です。
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評価指標と測定条件の決め方
主評価項目は製品の目的と対応させる
LDL-Cに関する機能性を検討する場合は、LDL-Cの摂取前からの変化量や、摂取終了時点における群間差が主評価項目の一例として挙げられます。
non-HDL-Cを主評価項目とする場合も、選定した理由をプロトコルに明記します。HDL-C、TC、中性脂肪などは、副次評価項目として設定されることがあります。
主要評価時点についても事前に一つ定めます。複数時点で測定する場合でも、どの時点を検証の中心とするのかを明確にし、それ以外の時点は推移の確認や探索的解析として位置付けると、結果を解釈しやすくなります。
採血条件と測定法を統一する
脂質関連指標を評価する際は、採血前の絶食時間、採血時間帯、前日の禁酒や禁煙、強度の高い運動の制限、来院前の食事条件などを統一します。
日本動脈硬化学会の基準では、空腹時は基本的に10時間以上の絶食とされています。ヒト試験でも採血条件をプロトコルと試験参加者向け手順書に具体的に記載し、来院ごとの条件差を抑えることが重要です。
LDL-Cについては、計算法を用いるか直接法を用いるかを事前に決め、試験期間を通して同じ検査機関、測定法、採血条件を用います。
non-HDL-CはTCからHDL-Cを差し引いて算出できますが、算出式、単位、欠測時の扱いも統計解析計画書で定めます。検体の遠心、保管、搬送条件についても施設間で統一し、測定誤差を抑える体制が必要です。
主観評価は補助的に扱う
コレステロールは血液検査による客観指標が中心となるため、VASや質問票を主評価項目とする場面は限定的です。
食事摂取状況、身体活動量、摂取状況などの記録は、機能性そのものを示す指標ではなく、結果に影響した要因を確認するための補助情報として活用します。
試験対象者の選定とスクリーニング
選択基準はベースライン値だけで決めない
コレステロール領域では、一定範囲のLDL-Cまたはnon-HDL-Cを示す試験対象者を募集する設計が考えられます。
ただし、1回の採血値だけで組み入れを決めると、一時的な変動や平均への回帰の影響を受ける可能性があります。事前検査と本登録前検査を分ける、複数回測定した値を用いる、一定の観察期間を設けるなどの方法が検討されます。
また、機能性表示食品への活用を想定する場合は、想定する摂取対象者と試験参加者の属性が一致しているかも確認します。
除外基準で整理すべき項目
主な確認項目には、脂質値に影響する医薬品やサプリメントの使用、継続的な医療管理を受けている疾患、家族性高コレステロール血症が疑われる所見、急激な体重変化、食事内容を大きく変更する予定、妊娠・授乳、試験食品に対するアレルギーなどがあります。
具体的な基準は医師およびCROと協議し、試験目的に対して過不足がないように設定します。
また、年齢、性別、閉経状況、BMI、喫煙、飲酒、運動量、食事内容は、脂質値に影響する交絡因子となる可能性があります。これらをすべて除外条件にするのではなく、スクリーニング時に把握し、割付、生活管理、統計解析のどの段階で調整するかを決めることが重要です。
試験実施時のオペレーション
CROと医療機関の役割を明確にする
CROを選定する際は、脂質関連のヒト試験実績だけでなく、試験参加者のリクルート力、採血に対応できる医療機関との連携、検体管理、データマネジメント、統計解析、論文化支援などの対応範囲を確認します。
複数の医療機関で実施する場合は、採血手順、検査機関、検体搬送、データ入力、逸脱報告の方法を標準化する必要があります。
また、試験食品とプラセボについて、外観、味、香り、包装などから割付内容を推測されないように設計することも、二重盲検性を維持する上で重要です。
倫理審査と事前登録を工程に組み込む
試験開始前には倫理審査を受け、説明文書・同意文書、募集広告、健康被害の補償、安全性情報の収集方法などを整備します。
機能性表示食品の届出に最終製品を用いた臨床試験を活用する場合は、試験名、主要・副次評価項目、試験デザイン、適格性、目標参加者数、資金提供者などを臨床試験公開データベース(UMIN)へ事前登録することが求められます。
倫理審査や事前登録に必要な期間を試験開始直前に追加すると、全体スケジュールが遅れる可能性があります。プロトコルの初期段階から、申請書類の準備期間を組み込むことが重要です。
生活管理と摂取状況の確認
試験期間中は、食事、運動、飲酒、体重、併用食品(機能性表示食品、特定保健用食品、その他いわゆる健康食品など)・医薬品・医薬部外品の変更などを記録します。
過度に厳しい制限は試験参加者の負担や離脱につながるため、日常生活を大きく変えないことを基本としつつ、評価に影響する行動を具体的に定義します。
試験食品の摂取状況は、日誌、試験食品の残数確認、包装の回収、電子記録などを用いて確認します。摂取率の基準と、基準に満たなかった場合の解析上の扱いも事前に定めておきます。
費用とスケジュールを左右する要素
コレステロールのヒト試験に必要な費用は、参加者数、スクリーニング人数、摂取期間、来院回数、血液・尿検査項目、試験食品とプラセボの製造、医療機関数、データ解析、論文作成の範囲によって異なります。
特に、設定した脂質の数値に合う試験参加者がどの程度存在するかによって、リクルート期間とスクリーニング費用が変動します。選択基準を厳しくするほど対象となる人数が限られ、募集期間が長くなる可能性があります。
スケジュールは、プロトコル作成、試験食品準備、倫理審査、事前登録、募集、摂取期間、データ固定、統計解析、報告書作成、論文投稿に分けて見積もります。
長期摂取試験では、試験実施期間だけでなく、募集前の準備と終了後のデータ整理にも複数月を要する可能性があります。届出や製品開発の希望時期から逆算し、余裕を持った工程を設定することが重要です。
結果の解釈と活用
結果を評価する際は、統計学的有意差の有無だけでなく、群間差の大きさ、信頼区間、ベースラインの偏り、摂取率、体重変化、生活習慣の変化、欠測やプロトコル逸脱の状況を併せて確認します。
主要評価項目で明確な群間差が確認されなかった場合でも、試験対象者の選定範囲、摂取期間、データのばらつき、プラセボ群の変化などを検討することで、次回試験の設計に活用できる知見が得られる可能性があります。
一方、事前に定めていない層別解析や複数の副次評価項目の結果は、探索的な知見として慎重に扱う必要があります。特定の条件を満たす集団で差がみられた場合でも、それだけで製品の機能性を断定せず、追加試験の必要性を検討します。
試験結果は、機能性表示食品の届出資料、査読付き論文、社内意思決定資料、次段階の製品開発方針などに活用される場合があります。
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まとめ
コレステロール領域のヒト試験では、まずLDL-C、HDL-C、non-HDL-C、TCのうち、製品の目的に対応する主要評価項目を明確にすることが重要です。その上で、試験対象者の脂質値と健康状態、ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を中心とした試験デザイン、採血条件、生活管理、統計解析計画を一貫したプロトコルへ落とし込みます。
企業担当者は、機能性表示食品の届出、論文投稿、社内判断などの活用目的を早期に決め、CROや医療機関とともに試験参加者の条件、検査項目、摂取期間、予算、スケジュールを整理することが求められます。
アポプラスステーションは、コレステロールに関するヒト試験の企画、医療機関との調整、試験運営、データ管理、統計解析までを検討する際の支援先の一つとなります。